透析液調整室の空気清浄化が透析液に及ぼす影響についての検討

福井 博義  松岡  潔
白石 邦雄  前田 哲也

はじめに
 ハイパフォーマンスメンブレンを用いた透析を行うときに生じる透析液の逆濾過や透析液を直接、濾過液として回路内に入れて行うOn-lineHDFやpush and pull HDFの普及、さらには近い将来、その使用が予想される 逆濾過促進型ダイアライザーの出現に関連して共通 に求められているのは「透析液の清浄化」である。当院においても、病院の新築移転を機に透析液の清浄化対策に取り組んできた。今回、その一貫として殺菌機能付き空気清浄器を透析液調整室に設置し、室内の空気の清浄化が透析液の清浄化にもたらす影響と、その空気清浄器の有用性につき検討した。

 1.ハイビガーについて

 ハイビガーWH-9400(タイセイエンター、以下、ハイビガーと略す)は殺菌機能をもった空気清浄器で、構造は図1のごとくであり、清浄部、殺菌部、消臭部、除塵除菌部により構成されている。

 2.方法

1)ハイビガーが図2のごとく、A、B、Cの3カ所に床からそれぞれAは2m、Bは2.2m、Cは2.1mの高さに順次変えて設置した。矢印は風向きを示す。Aは部屋の中央に設置し、ドアからの外気の侵入を防ぐ風向きとした。Bはドアの真上の壁に設置し、ドアからの外気の侵入を助ける風向きとした。Cはドアとドアの真ん中の壁に設置し、室内を循環する風向きとした。このA、B、Cの位置に2週間ごとに順次ハイビガーを移動設置し、以下の測定を行った。

2)空中浮遊菌測定装置(バイオテストRCSエアーサンプラー、グンゼ産業)を用い、透析液調整室における通常作業中(ドア開閉多少あり)でのハイビガーON、OFF時(通常はON状態からOFF状態に切り替えて4時間後)の空中浮遊菌のコロニー数を測定した。測定場所はB液タンクの直上とした。測定条件は、空気320l/8minを各培地に集菌させ、全コロニー数を測定した。

3)B液作製時に、ハイビガーを使用したときとしなかったときのB液中のendtoxin(以下、ETと略す)濃度を測定した。

 

 

 

 

 3.結果

1)空中浮遊菌のコロニー数は対象とした透析室で80個、Aの設置場所においてハイビガーON状態で22 個、OFF状態で44個、Bの設置場所でON状態で32個、OFF状態で52個、Cの設置場所でON状態で23個、OFF状態で36個という結果であり、すべての設置場所においてハイビガー使用時のコロニー数が減少していた(図3)。

2)B液作製時のB液中のET濃度(各条件下で7回ずつ測定し、その平均値を示した)は、Aの設置場所においてハイビガーがON状態で21.5EU/l、OFF状態で104EU/l、Bの設置場所においてそれぞれ48.5EU/l、Cの設置場所においてはそれぞれ34.5EU/l、95.5EU/lであった。B液作製時のB液中のET濃度も、ハイビガー使用時にすべての設置箇所において有意に減少していた(図4)。

3)空中浮遊菌のコロニー数でみても、B液作製時のB液中のET濃度でみても、Aの位置に設置しハイビガーをONにしたときが一番低い値を示した(図3)。

 

 4.考察

 透析液の清浄化が手根管症候群の減少をもたらしたとするBazらの報告
1)やretrospectiveにみて最近の手根管症候群の減少はハイパフォーマンスメンブレンの使用によるものではなく、むしろ、透析液の清浄化が関連しているのかもしれないと推論している論文
2)など、透析液の清浄化が透析アミロイドーシスの予防になんらかの役割を果 たしていると考えられる。換言すれば、清浄化されていない透析液中のETなどのパイロジェンがダイアライザーの膜を介して血液中に入り
3)、透析膜による補体活性化などと相まってサイトカインを活性化し
4)、透析アミロイドーシスの発症になんらかの役割を果たしている可能性が推測される。また、通 常の透析においても、high-fluxの膜においては逆濾過(back filtration)により透析液がダイアライザー内に入ることが指摘されている
5)、6)。このような点を考慮すれば、透析液を置換液(on-line希釈液)として用いるためETフリーの透析液が要求される
7)、8)on-line HDFやpush and pull HDFの施行時に限らず、すべての透析時によりクリーンな透析液が供給されることが望ましい。当院では、1997年1月よりの新病院への新築移転を契機に表のごとき対策を行っている
9)。また、透析液調整室内の清浄化に関しても、
1,毎日、透析液調整室内の掃除を行う(とくに、床は丁寧に)、
2,整理整頓に努め、とくに重曹粉末の入った袋についたごみはペーパータオルなどで拭いて使用する、
3,B液作製ごとに、B液タンクをRO水で洗う、
4,B液タンクの上に排気ダクトを設置する、などのことを行ったうえでこの空気清浄器を設置している。

 図5に、当院透析室のフローラインと各ポイントでのET値を示す。フローラインの末端で透析液出口部カブラー後のET値は常に検出感度以下を保っている。透析液の清浄化対策としては、単にフローラインの中にETカットフィルターを装着すればすむというものでなく、透析液供給システムの全行程のなかで総合的にとらえるべきものである。殺菌機能付き空気清浄器「ハイビガー」の設置も 、その考えのもとに行われた。このハイビガーの使用は透析液調節室内の浮遊細菌数を減少させ、結果 として、B液調整時のB液タンク内のET濃度を低下させることができた。このことはB液作製時空中浮遊細菌の存在がB液作製に際して悪影響を及ぼしている可能性を示唆しており、ハイビガーの設置は透析液清浄化対策の一つとして有用であると思われる。また、同時にハイビガーの能力を発揮するためにはその設置場所を考慮する必要があることも示唆している。しかし、以上のようなハードの部分の充実だけでなく、優れた洗浄・消毒剤による透析液フローラインの完璧な洗浄・消毒やETフリーの弱電解酸化水を用いたカプラー部の洗浄・消毒
10)11)、定期的なETカットフィルターの交換、など日常のメンテナンスというソフトの部分の努力も見逃してはならない。

 結語

 透析液調整室内の清浄化、とくに空気の清浄化のためのハイビガーの設置は空中浮遊菌、B液作製時のB液中のET濃度ともに減少させる結果を得、有用であると思われた。また、ハイビガーの適切な設置箇所も考慮する必要があると考えられた。

 本論文の要旨は第43回日本透析医学会総会(1998、横浜)において口演した。

 文献

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  2. Schwalbe, S. Holzhauer, M. Schaffer, J. et al. : β2-microglobulin associated amyloidosis : A vanishing complication of long-term hemodialysis? Kidney Int. 1997 ; 52 ; 1077-1083
  3. Bernick, J. J., Port, F. K. Favero, M. S., et al.: Bacterial and endotoxin permeability of hemodialysis membrane. Kidney Int. 1979 ; 16 : 491-496
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  6. Golper, T. A. and Leone, M. : Backtransport of dialysate solutes during in vitro continuous arteriovenous hemodialysis. Blood Purif. 1989 ; 7 : 223-229
  7. 第1回九州コンセンサスカンファレンス:“透析液を置換液として使用する際の水質管理基準”の解説.
    九州HDF検討会誌 1995 ; 1 : 33-41
  8. 森井浩世、浅野 泰、内藤秀宗、他:ガンプロ社AK-100 Ultra のための透析液安全基準・施設基準について.
    透析会誌 1998 ; 31 : 1107-1109
  9. 松岡 潔、摩文仁隆子、宮本哲明、他:エンドトキシンフリーの透析液は血清β2-MG値を低下させるか?
    HDF療法’98. 1998. 103-106, 東京医学社、東京
  10. 白石邦雄、前田哲也、福井博義、他:RO水を用いた弱電解酸化水の生成、九州HDF検討会誌1997 ; 3 : 93-97
  11. 前田哲也、吉村恵美、西本幸司、他:エンドトキシンフリーの弱電解酸化水を使用したカプラー部清浄化についての検討。
    HDF療法’97. 1997, 74-77, 東京医学社、東京